こんにちは。放浪のバックパッカー旅すけです。
いつも股旅ブルースをご覧頂きありがとうございます。
世界を股にかけて旅する股旅ブルース。
今回からインド北部ラダック地方を旅します。
伝統的なチベット文化残るレーの街で様々な人に出会いました。
まるで月面世界、ラダックはインドなのにインドじゃない!?
機内に差し込む陽光で微睡から目が覚めた。
気がつくと眼下には荒涼とした大地が広がり、まるで月面を飛行しているような感覚に襲われる。
そうか、ラダックに向かっているんだった。
混み合うエアインディアのシートに座り直し、これからの旅が今までにない経験になる事を期待するのだった。
ラダックはインド北部、中国との国境に接しヒマラヤ山脈に位置する地域。
標高3,000mを超える山岳・高原地帯にあり1日に夏と冬があると言われる程、寒暖の差が激しいのが特徴である。
デリーから約1,000km、車だと丸1日かかる辺鄙な場所をなぜ訪れたかというと、
“ツェチュ”なるものを見に来たのだ。
ツェチュとはゾンカ語で“月の10日”を意味し、各地の城塞や寺院で開かれるお祭りの事である。
ラダックはインド領内であるが、主な宗教はチベット仏教。
各地にはチベット系民族が多数暮らし、伝統的な営みを続けている。
中国の文化大革命の影響を受ける事がなかった為、今なお多くの寺院や宗教施設が残り、チベット文化を色濃く残す地域でもあるのだ。
生のチベット文化を見てみたい!ツェチュを体験したい!
以前からチベット文化に興味があった僕は6日間の休暇を取って旅に出たのだった。
飛行機は山々の間を右に左に旋回し、なだらかに降下して行く。
ようやくレーの空港に着陸した時、驚くほどの空の青さに息を飲んだ。
標高3,600mを超えるせいか、空が近く澄んでいる。
更に高いビルディングや木々もなく、周辺の荒れた大地が余計に空の色を映えさせた。
まるで真っ青な油彩キャンバスが一面に広げられているような、見たことのない空だった。
空港からはタクシーでレーの市街地まで行ける。
道路は所々、舗装されていない箇所もあって砂埃を上げながら走っていた。
道中の至る所にカラフルなチベット文字の看板や派手な装飾のゴンパ(寺院)があって、インドとは別次元なんだと改めて思った。
ふと、大きな公園を横切った時だった。
公園と言ってもサッカースタジアムほど広く、一面芝生が植えられている。
そして、奥にはステージのような物が設営されていた。
“ダライ・ラマが来るんだ。”ふいにドライバーが口を開く。
彼らにとってダライ・ラマは神様のような存在。
普段はダラムサラで暮らしているようだが、年に一度、ラダックにも足を運んでいるらしい。ドライバーはまるで好きなアイドルに会えるかのように嬉しそうに話す。
長い亡命生活のダライ・ラマがどんなお話しをされるのか、僕もぜひ謁見したかったのだが、生憎レー出発の日に開催されるらしい。
ドライバーはひどく残念がってくれたが、僕も同じ気分だった。
チベット文化の真髄!レー王宮をモデルにしたのは、あの世界遺産だった!
タクシーは街の中心あたりに停車した。
バス停やタクシー乗場が密集し、道路はひどく混雑している。
ここから北に向かって商店街が広がり、東側は住宅地となっている。
沿道には現地の人々が路上で野菜を販売していたり、市場の様相。
スカーフを巻く女性や、遠くからコーランが聞こえてきたので、イスラム教の人々も共存しているのだなと気付いた。
メインストリート近くのホテルを予約していたので、ここからは徒歩で向かった。
しかし、僕はこのラダックの地を甘く考えていた。
やはり標高3,000m、少し歩いただけで息が切れる。
更に巨大なバックパックを背負っているので、負担は一層である。
これ亀仙人の修行かよっ!たった200mぐらいの距離に関わらずフーフー言いながらホテルにたどり着いた。
ロビーのソファにへたり込むと、受付の男が、見慣れた光景のようで、そうだろうそうだろうと笑っていた。
男は真顔に戻ると、“今日は1日部屋で休んで、明日から観光を始めて下さい。いいですね。”と念を押された。
恐らく、高山病で倒れるツーリストが後を絶たないのだろう。
カウンター横には酸素ボンベが用意されていたが、使いたくないものだ。
祭り前に倒れてしまっては大変だ、僕はその言葉に終始従う事にした。
ホテルの部屋に入ると、窓から入る暖かな陽光が心地よかった。
流れる風がカーテンを揺らし、農家の田畑が牧歌的な情景を作りだしていた。
ひとまず、ベッドに横になって休むのだが、暇である。
生来、落ち着きがない僕はこんな天気の良い日に部屋にこもるなんて到底出来ない芸当である。
少しだけ、ホテル内をウロつこうとこっそり部屋の扉を開けた。
周囲を確認し抜き足差し足て、わしゃ泥棒か!?
ホテルのスタッフに見つからないよう、屋上のテラスまで出てきた。
見ると、市街地の北にある山の中腹部に巨大な建物があったのだ。
それは古代の遺跡というよりも、現代建築のようでもあり、廃墟に化したビルディングのようでもあった。
形は四角い正にビルのようで、壁面には整然と窓が並んでいる。
周辺にも似たような形の小さな建物やストゥーパと呼ばれる仏塔が建っていた。
これこそがレー王宮。
かつてラダック王国を統治していたセンゲ・ナムギャル王によって建立された宮殿はチベットにあるポカラ宮がモデルにした事でも有名である。
現在は博物館として見学出来るようだが、今なおレーの街を見下ろしチベットの歴史を物語っているのだ。
周囲の岩山に建つ姿はまるで月面基地のようで、17世紀にこんな先進的な建築を造りあげた事に驚かざるを得なかった。
ぼんやりしていると、背後から声をかけられた。
ホテルスタッフがこっちを見て、部屋に入れと言っている。
わかったわかったと、すごすご戻る事にした。
だってよー、暇だもんでよー。
しかし本当に怖い高山病。皆様、ラダックに到着した日は体をゆっくり慣らしてね。
レー・パレス
Leh Palace
Namgyal Hill, Leh, Jammu and Kashmir 194101
8:00~17:00
山頂に位置する旧王宮。美しい市街の眺めを楽しみながらハイキングで行くことができる。