こんにちは。放浪のバックパッカー旅すけです。
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今回はヒマラヤ山脈にあるというパンゴンツォを訪れました。
山中に在る湖は蒼く輝き、訪れた者に自然の驚異を見せてくれるのでした。

秘境の旅は長く険しい。富士山を越えるチャンラ峠!

“天空に湖ありて蒼く輝く”
まるでドラクエに出てくる言い伝えのような言葉
決まってこういう所はなかなか辿り着けない困難な場所だったり、強敵が待ち構えていたりするのだが、最終的に強力な武器が手に入る。
小さい頃は困難な場所でも、ゲーム感覚で楽しめたものだが、大人になるとそうもいかない。秘境の奥地となったら、やれ時間の制約だ、費用の問題やらが発生して重い腰が上がらなくなる。
なにより体力的な問題は否めない。長時間の移動と悪路は老いた身体に響き(言う程高齢でもないのだが、、。)なかなか行かなくなるものだ。
しかし今回、ラダックの奥地にあるという天空の湖にどうも惹かれてしまったのだ。
当時インド映画の舞台になった事で話題になっており、観光客も急増しているようだった。
おいおい、俺はそんなミーハーじゃないぜ〜、と思いつつガイドブックやネットの写真に興味をそそられる。
そこには蒼天の元、真っ青に輝く湖が写っているではないか!?
本当にこんな青いのか〜?荒れた山中に湖なんてあるのか〜?これはもう実際見に行くしかない!!という事でエージェントを手配したのだった。果たして勇者の剣は手に入るのか!?

湖の名はパンゴンツォ
パンゴンとはチベット語で“一片の小さな芝生”、ツォは“湖”
一片どころの話ではなく広大な湖と聞いているが、果たしてどうなのか?調べてみると、やはり全長150kmととてつもなく大きい。
琵琶湖の南北の長さが約60kmであるため、その倍以上の長さだ。
しかし面積は604平方キロメートルとあり、琵琶湖の660平方キロメートルの方が大きいようである。
どうやらパンゴンツォは東西に長く伸びた細長い形状であるらしい。
場所はレーの市街地から160km、ヒマラヤ山脈を越えなければならない。

時間にして車で5時間!しかも標高5〜6,000m級の山越えは高山病の心配もある
僻地どころの話ではないが、意を決して向かう事にした。

朝6時、ドライバーに迎えに来てもらって車に乗り込む。
標高が高い場所は気温も下がる為、ダウンベストなどの防寒具も用意した。
市街地を抜けると、ラダックお馴染みの荒涼とした山々と大地が続く。
所々には木々も自生しており、その一帯は小さな集落だったりする。

小さな河川も流れて、さながら荒地のオアシスといった感じだ。
1時間もすると、本格的な山岳地帯に入る。
登り坂が続く谷間は片側がガードレールのない崖になっており恐怖すら感じるのだが、ドライバーは慣れたものでハイスピードでスイスイ運転している。
眼前に広がる青い空と岩山の灰色のコントラストが新鮮で幾度となく写真を撮ってしまう。延々続く同じ景色にウトウトし始めた頃、山あいに白いなごり雪が目立ちはじめた。

恐らく標高は4,000メートルを超えているのだろう。
寒暖の差も激しくなり、僕はダウンベストのジッパーを上げた。
そうこうするうち、周囲は一面真っ白な雪景色に囲まれた。
まさかここインドでこれほどの雪景色に出会えるとは。
空は更に近く、青さを増す。まるで天国に近づいている気分。
山頂近くになると、急にツアーバスや自動車が増え始めた。
ドライバーは道路脇に停車すると、ここが最も標高が高い場所だと教えてくれた。
見ると、黄色の石碑が建っており、なにやらチベット語と英語で書かれている。

“チャン・ラ峠”ここいらの地名らしい。
標高はなんと5,360メートル、富士山の山頂よりも遥か高い場所にいる事に軽く驚いた。
いづれは富士山も登りたいと思っていたが、思いがけずその上に到達してしまったではないか。
まぁ車に乗ってただけなんだけど、記念に写真撮ってもらおう。
しかし、こんな高さまで一気に来て、大丈夫だろうかと心配したが、空気の薄さは感じられない、むしろ澄んだ感じがして心地よい。
峠からの山あいの絶景も美しくヒマラヤ山脈の雄大さをリアルに堪能するのだった。

チャンラ峠
Chang La Pass
Pangong Lake Rd, 194201

ついに辿りついた秘境パンゴンツォ。輝く水面が心震わす。

峠を越えると今度は下り道になる。
空目掛けたドライブも谷間を目指すようになった。
自然とスピードが上がるツアー車のエンジンブレーキの感覚が伝わる。
さすが熟練ドライバー、この悪路も慣れたものだ。
途中には軍事施設が幾つか見られた。そうかここは中国との緩衝地帯、国境での紛争を想定して睨みを利かせているのか。
甚だ大自然とはミスマッチだが、これもパンゴンツォツアーのちょっとしたスポットかな。
“右手に見えますのはインド陸軍特別車輌ジープでございます。”なんて頭の中で呟いてみた。出発してから4時間、そろそろ湖かなと思い始めた頃、段々と雲行きが怪しくなってきた。おいおい、5時間かけて行く秘境で曇ってたんじゃ意味ないぜ!
ドキドキしながら乗車していると、遠く山々の隙間に水面らしきものが見えた。
ようやく着いたかな?周囲は灰色の砂利に囲まれており、到底美しさは感じられず。
ただ、開けた先に横たわる広大な水の輝きはまさしくパンゴンツォなる湖のものだった。

ドライバーが車を停めると、ゆっくりとドアを開けた。
高地特有の澄んだ風が吹き込んできて、水の匂いが鼻をつく。
遠方に並ぶ山脈の姿を水面に映しながら、パンゴンツォは呼吸しているかのように波立たせていた。

生憎、曇天だったせいか、そこまでの青さは分からない。
しかし、自然と出来た巨大な湖の驚異は、僕の好奇心を掴んで離さなかった。
ぼんやり遠くを眺めると、湖畔にはタルチョーが幾重にも飾られ不思議なオブジェのように佇んでいる

やはり観光客だけでなく地元仏教徒の人々も巡礼に来るのだろう。美しき自然は信仰の対象でもあるようだった。

さ〜て、パンゴンツォも見学したし、またゆっくり帰るかな。
車に乗り込むと、ドライバーがエンジンをかけた。
ゆるい音と共に、車は湖を後にする。これからまた4時間のドライブ、長いなぁ〜と思っていたら、発車してすぐ爆睡!気づいたらレーに着いていたという。
旅情も何もあったもんじゃないな!!

Pangong Tso
パンゴン・ツォ
ヒマラヤの山々に囲まれた辺境の閉塞湖。淡水と塩水が混ざった水質や渡り鳥などで知られる。