大量のプロパンガスを運ぶ、あり得ない高さのトラック

こんにちは。中年バックパッカー旅すけです。
いつも股旅ブルースをお読み頂きありがとうございます。

世界を股にかけて旅する股旅ブルース。
前回まで、サハラ砂漠の星空に感動し、またしても乙女心をくすぐられる中年バックパッカー旅すけなのでした。
今回はツアーの終点、フェズまで移動します。

メルズーガからフェズへ。ローカル食堂は一見さんお断り??

明朝、ガイドの声で叩き起こされた。
昨夜は寒さと重い毛布のせいで寝付けず、テント外のトイレに何度も向かったのだ。
時刻を見るとなんと5時!!ゴゴ5時!石野陽子のコントじゃないんだから。
もう少し寝かせてくれー、と再び重い毛布に顔を埋めたところで思い出した。
そうだ、サハラ砂漠の朝日を鑑賞するんだっけ。早起きして朝日を見ようなんて企画はよく聞く話だが、僕はこれまで成功した試しがない。眠気か朝日かと言われれば、6:4で眠気が勝つ、いや、10:0だ。
だが、今回は違う!遠くアフリカ大陸まで来たのだ、必ず目撃してやると張り込み中の刑事のように昨夜は意気込んでいたのだ。
重い瞼をこすりながら起き出すと、隣のテントから紅茶のいい香りが漂ってきた。
中ではマルタン夫妻が既に支度して熱い紅茶片手に暖を取っていた。
軽く挨拶してテーブルに腰掛けると、ガイドが僕にもミルクティーを作ってくれた。
砂漠の明け方はまだまだ寒い。防寒用のジャージだけでは足らず、ヒーターから離れられなくなってしまった。熱いミルクティーは寝起きで凍えた体を芯から温めてくれた。
あ〜こんな美味いミルクティーがあっただろうか。2リットルぐらい飲みたいぞ。幼少時、ヤクルトの2リットルペットボトルが発売されないかと期待したものだった。全然関係ないけど・・。

用意が出来たのでガイドと共に朝日が見える丘へ。
まだ暗い中進んでゆくと、地平線に光の線が現れてきた。
線は段々と太く輝きを増し分厚い太陽が登ってくる。あたりは光に照らされ昼間のような情景を作り出した。砂漠に登る朝日は、夕陽とは違って明るい黄金色を放ち砂の世界を包んでゆく。
神々しさすら感じるその情景に息を飲むことすら忘れてしまうのだった。

軽い朝食の後は、ラクダに乗ってオーベルジュまで帰ってきた。マルタン夫妻とはここでお別れ。
惜しみつつも、またいつかと言葉を交わして後にした。
オーベルジュ前には例のごとくアマールがレニクラ風に4WD車に寄り掛かって待っている。
今日は最終日、終着点のフェズまで乗せてもらう予定だ。

フェズはモロッコ北部の都市。有名な旧市街は世界遺産に登録されており、マラケシュと共にモロッコの主要な観光資源となっている。メルズーガからフェズまでは約500km、7時間のドライブにいざ!

出発して3時間、幹線道路沿いのレストランで昼食を取る。
ここは焼いた鱒が名物との事で早速注文してみる。出された料理は何の変哲もない焼き鱒に見えるが、ハーブの良い香りが漂う。見ると腹部にローズマリーがふんだんに挟まれているのだ。
なるほど、魚の臭みも抑えて上品な味わいになっている。日本では塩焼ばかりだけど、国変われば食べ方も千差万別、うーむ、テイスティグ〜ッ。

そうこうするうち、時刻は夕刻になり街並みもビルが増えてきた。フェズは人口90万人の大都市でもあるので新市街も近代的な建物や公共施設が揃っている。なにもない砂漠からこんな都会へ、正に吉幾三の気分だな。興奮していると、アマールともここでお別れする事に気づいた。
モロッコ人ドライバーのアマール、無口でニヒルなレニー・クラヴィッツだったけど、なかなか楽しかった。喧嘩もしたけれど、旅の思い出だな。
フェズのホテルに到着すると別れ際、素っ気なく“マッサラーマ(さよなら)”と聞こえてきた。
僕も覚えたての言葉をそっと呟いた“マッサラーマ”。

旅は別れの連続だ。ほとんどが二度と会う事のない別れである。
旅を続けていると別れの寂しさが徐々に摩耗してくる。別離に慣れてくるのもあるが、再会の確信みたいな感覚が生まれてくる。それは漂流する者同志、いずれまた会えると言うような希望的感覚で、今生の別れのような悲壮感漂うものがなくなる。ウォン・カーウァイの映画『ブエノスアイレス』のラストで主人公が遠い異国に旅立った友人を想ってこう呟く、“会いたいと思えば、いつでも会える”と。

さーて、ホテルのチェックインも終わったし、飯でも食いに行くか。
夜のフェズの街は大通りに人が溢れレストランやバーがひしめき合っていた。
うーん、観光客向けのウェスタン料理は食べたくないし、どこかいいとこないかしらん?
ふと見ると店頭で鳥の丸焼きがいくつも串刺しにされ、大量にグリルされているレストランを見つけた。
その通り沿いはほぼ同じような店ばかりで、アラビア語の看板だらけのローカル食堂街のようだった。
これこれー、求めてたのこれー!早速入ろうとするも、店員から拒否される。
2軒目に突入するもまた拒否・・。
おいっなんでなんだ!日本人は出禁か!?ドレスコードでもあんのかっ?ここはジュリアナ東京かっ?
ふてくされて歩いていると、1人の若いウェイターが手招きして、“うちに来なよ”と言うのだ。おぉ、地獄に仏とは正にこの事!ヨネスケじゃなくても突撃しちゃうぞ!
その食堂は他と同じように鳥の丸焼きがメインらしく美味しそうな香りを漂わせていた。
ファーストフードのような店だったが、全然気にしなーい。
席に着くと、その若いウェイターが注文を聞きに来た。僕は迷わず、鳥のグリルを頼んだ。
料理はすぐにテーブルに並べられたが、驚いたのはその量!半身サイズの鳥のグリルと山盛りのサフランライスが大きなスチール皿に盛られ、更に別皿には山盛りフレンチフライが出てきた!ガストかっ!?
美味そうだけど、食えるかなぁ。鳥のグリルは焼き立てだけあって外はパリッといい歯応え、身も柔らかくて美味しい。サフランライスも風味がいい。


僕がふぅふぅ言いながらグリルと格闘していると、先程のウェイターの少年が別テーブルの食器を片付けながら、残ったコーラを飲んでサボっていた。
僕に気づくと、こっそり微笑んで、内緒だよとリアクションしてきた。
僕も思わずにっこり微笑んで頷いてあげた。

お腹いっぱいでレストランを出ようとすると、先程のウェイターの少年が店頭で看板を下ろしていた。

“ありがとう、明日も来てよ”

“明日はもうフェズを出るんだ”

“じゃあSNSでお店の事オススメしてよ”

“もちろん、必ず書くよ”

“See You” 手を振りながら僕はまた小さく呟いた“マッサラーマ”。

今回も股旅ブルース、最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、35話 シャウエンは限りなくフィクションに近いブルー
をお送りします。