誰が買うのか、道端の蜂蜜売り

こんにちは。中年バックパッカー旅すけです。
いつも股旅ブルースをお読み頂きありがとうございます。

世界を股にかけて旅する股旅ブルース。
前回まで、ダデス峡谷の美しい夜空と輝く朝焼けに感動するも、夜風に当たりすぎて風邪をひいてしまう愚かな中年バックパッカーなのでした。
今回はダイナミックな断崖で有名なトドラ渓谷を散策します。

トドラまで荒野のドライブと謎のドライバー、アマール

美しいダデス峡谷を出発し、本日はトドラ峡谷に向かう。ダデスだ、トドラだ、と峡谷続きだが2つは似て非なるもの。
ダデスはその景観を上方から見下ろし、谷間だけでなく近隣の大自然も眺望できる峡谷であるのに対し、ダデスは谷間沿いを下から見上げる観光名所。40メートルにも及ぶ自然に構成された断崖絶壁の谷間を散策しながら地層や迫力ある奇岩を間近で観察出来たりする。
また、谷間には小川の清流と日陰の心地よい風を感じる事が出来るため避暑地としても人気の場所である。

車は一度南下し、国道10号線を北東へ進む。1時間程するとダデス観光の拠点ティンジルに到着した。
ティンジルからは北西に進路を変更する。
一旦カスバ街道から外れる訳だが、特に景色が変わる事もなく、黄土色の山間部に一筋の線が刻まれたように道は延々続いて行く。

そのうち国道は市街地に入り宿泊所やレストランの看板が沿道沿いにチラホラ目立って来た。
モロッコに来てから数日経つと、不思議なもので全く読めないアラビア語の看板もなんとなく解読出来るような気がして来た。まぁ商店の佇まいや様子から大概は掴めるものだが、その独特なデザインも慣れてくると、ここでの生活を空想するような親近感を覚え始めた。

気がつくと視界を覆うように巨大な断崖が真正面に現れた。トドラ峡谷に続く崖である。
見上げる程の断崖は近付けば近付く程、隆起した岩をあらわにし大自然を実感させた。
峡谷の底を流れる河を越えると道路沿いに車を停めた。
ここからは散策に向かうのだが、アマールは待っているらしい。

全くニヒルな男で、ガイド以外の事をあまり喋らない。
飯も食っている気配すらなく、時折、ダッシュボードに潜ませたチューイングガムを取り出してはくちゃくちゃと噛んでいるのである。一度、何かの話の中で結婚について語っていた。
彼は未だ独身らしく、結婚には全く興味がないらしい。このイスラム教国で独身でいる事は日本と違って世間体など大変ではないかと思うが、意外にも、大した事ないさと言ってのけた。
それよりも犠牲の方が大きいと嫌悪感を露骨に現したのが印象的だった。
元来、旅好きな人間で所帯じみた人をあまり見かけない。放浪の俳人、松尾芭蕉も生涯独身を貫いた。結婚や家族とゆう物は足枷として旅人たちにイメージされるのかも知れない。アマールは単なるドライバーだが、旅に関わっていると感覚も似てくるのだろうか。

さて、トドラ峡谷の散策を始めよう。途中には土産屋もあり買い物を楽しむ事も出来る、谷底の河は足首ぐらいの深さなので、裸足で浸かるのも心地よいだろう。何よりも谷間を流れる風が、優しく肌を包み込み熱帯の汗ばむ体を冷やしてくれる。なるほど、避暑地と呼ばれることはある。
谷底の景観も珍しく崖下の岩に押し潰されそうなホテルも興味深かった。

ぷらぷら歩いて戻ってみると車に寄りかかるようにアマールが待っていた。僕に気づくと早々に運転席に乗り込みエンジンをかけた。

出発するとアマールが感想を聞いてきた。

“いや、よかった、日本で見た事ないよ。”
“それはよかった、ところでお前、夏休みはいつまでか?”
“??9日間だが?”
“??9日間?”

どうも話がかみあわんぞ?

“学校はいつからか?”
“学校??”
“お前、学生じゃないのか!?”

“ちげーわ!!アラフォーだっつーの!なわけないだろ!”

衝撃である!この40過ぎの中年男性をずっと大学生と思っていたのか!!どこをどう見たら!まぁだからと言って何かが変わる訳でもなく、車内で盛り上がる訳でもなく、

“そうか。”の一言!!

なんじゃそれ!!それだけか!このまんまガードレールぶつかって谷底落ちろ!!
これまたポーカーフェイスのアマールにヤキモキするのだった。
しかしこれがモロッコのノリとツッコミかな?テンションに高低差ありすぎて耳キーンてなるわ!!

今回も股旅ブルース、最後までお読みいただきありがとうございました。
次回、31話 メルズーガのスパイシー親方は負けられない
をお送りします。

トドラ峡谷
مضايق تودغى
Tinghir 45800 モロッコ